今回紹介する映画は 靴ひも
2018年公開 イスラエル製作 上映時間:103分
原題:LACES
監督:ヤコブ・ゴールドヴァッサー 脚本:ハイム・マリン
この作品は、イスラエル・アカデミー賞8部門ノミネート、そして父親役のドヴ・グリックマンが助演男優賞を受賞しています。
そして日本でも、東京国際映画祭2018の上映作品としてワールドフーカス部門で上映され、また東京都並びに文部科学省の推奨作品になりました。
また、世界各国で数々の賞を受賞しています。
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この作品は、イスラエルで実際に起った実話が描かれています。
腎不全を患う高齢の父親へ、知的障害の息子からの臓器移植を巡る問題をベースに
ゴールドヴァッサー監督自身、発達障害の息子を持つ親としての愛情あふれる視点で描いた感動のヒューマンドラマです。
監督が込めたメッセージ
映画【靴ひも】のオファーを聞いたゴールドヴァッサー監督は、当初この作品を撮る事に消極的でした。
何故なら、監督自身もスペシャルニーズ(特別支援を必要とする)の息子を持つ父親だったからです。
余りにも身近な問題に向き合う事に躊躇したそうです。
しかし、その後監督の抱える問題を解決した事をきっかけに、この映画で世の中の発達障害に対する見方を変えられるかもしれない…
そして、その強い一念は完成された作品に見事に込められていました。
主人公カディの魅力あふれる人物像と、どのような環境になっても力強くポジティブに生きていく彼の姿がとても感動的でした。
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キャスト紹介
ゴールドヴァッサー監督は、この作品を温めながらも10年の間、撮影に入る事はありませんでした。
ある時、ネボ・キムヒ(カディ役)が出演したTVシリーズを観た時、彼は発達障害のある役柄を演じていました。
そして、その演技に非常に感銘を受けた監督は、キムヒにメッセージを送ります。
そのやり取りの中で【靴ひも】の企画の話をしてみると、キムヒは「是非やろうと」とストーリを気に入ってくれました。
しかし、監督はまだ心の準備が出来ていない事を彼に打ち明けます。
すると…「僕が後押しするよ」とキムヒは言ってくれたそうです。
そして、彼の賛同がゴールドヴァッサー監督の背中を押して【靴ひも】は完成されました。
カディ/ネボ・キムヒ
主人公の発達障害のある38歳の青年。「僕は掃除のチャンピオン」「僕は歌手だ」と自負する等、かなりのポジティブ思考の持ち主。
ルーベン/ドヴ・グリックマン
エルサレムで自動車整備工場を営んでいます。30年以上前に別れた妻の死で、残された発達障害の息子カディを一時的に預かる事になります。
イラナ/エヴェリン・ハゴエル
カディのソーシャルワーカー
リタ/ヤフィット・アスリン
レストラン経営者。ルーベンを父親の様に慕っています。
デデ/エリ・エルトニオ
ルーベンの整備工場の従業員
あらすじ
エルサレムで小さな自動車整備工場を営むルーベンに、1本の電話がかかって来ました。
それは、30年以上前に別れた妻の事故死を知らせるものでした。
ルーベンが葬儀に向かうと、既にラビによるお祈りが始まっています。
そして、その横で1人息子のカディが「母さん」と叫びとても悲しんでいます。
ところが、ルーベンとカディは、親子でありながら20年近く会っていませんでした。
「カディ」
葬儀が終わり、ルーベンがやっとカディに声を掛けますが、カディはソッポを向いてしまいます。
仕方なく、ルーベンはカディと一言も言葉も交わさないまま、墓地から立ち去りました。
その時、ソーシャルワーカーのイラナがルーベンを呼び止めます。
彼女は、カディの次に住む施設が決まるまでの数週間、彼を預かって欲しいと頼みました。
しかし、ルーベンは整備工場の仕事があるため、発達障害のカディの面倒を見る人がいないと断ります。
イラナは、ルーベンの家の環境の良さと、昼間はカディを整備工場で働かせることを提案します。
それでも無理だと渋るルーベンをよそに、イラナはカディをこのまま連れて帰って欲しいと彼を呼びました。
「しばらくお父さんと暮らして」とイリナはカディに伝えます。
するとカディは
「仕事を手伝うよ。僕は掃除のチャンピオンだ」とカディはイリナの言う事を受け入れました。
この日から、30年以上も離れて暮らしていた父子の同居生活が始まります…
続きは本編で!
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こちら↓の記事も発達障害について紹介しています
勝手に私見考察
ここからはネタバレを含みます
私自身もADHDの息子を育てる親目線で、この作品の感想を述べていきたいと思います。
映画成功のカギはカディだった
ゴールドヴァッサー監督のこの作品に込めた思いとは、発達障害に対する周りの理解を深め、彼らの出来ない事にフォーカスするよりもできる事にフォーカスして欲しい!
そして、その監督のメッセージを世界中に広めるためには、この作品の成功しかありません。
主人公のカディは天真爛漫でフレンドリーな性格ですが、生活面では様々な拘りがあります。
この、拘りが極端に強い特性や、衝動的な特性などが発達障害でよくあげられる問題行動です。
そしてこの作品では、周りの人々に迷惑をかけながらも、周りの人々から愛されるキャラのカディをどこまで表現出来るのか!
この愛されキャラのカディが一番の肝でした。
そして、カディ役のネボ・キムヒが見事にその大役を好演しています。
彼が発達障害者の事をよ~く勉強した事が伝わる演技でした。
現実社会でも、愛されキャラであることは、とても大切な要素だと思います。
実にリアルでアルアルなシーンが満載でした。
発達障害を理解するとは?
発達障害を持つ人達は、それぞれに違った拘りや特性があって、社会の中では生き辛く苦労の多い人生になりがちです。
例え、知的水準が高い人であっても発達障害の持つ特性によって、やはり生き辛い経験をするのは皆と同じではないでしょうか。
では、何故生き辛いのか…
この作品にも描かれていましたが、ルーベンはカディとの暮らしが始まったばかりの頃、
”足をマッサージして””母さんはこうしてくれた”…など次々とカディの要求を押し付けられる事に戸惑い、苛立ちます。
そうです、彼らと暮らす事は例え大人であっても、子供と接するように丁寧に穏やかに接する事がコツになります(時には忍耐力も必要です)
間違っても、大人なんだから!とかこんな事も出来ないで!と叱ったりすれば、カディ同様に言われた言葉にのみ反応してしまって悪循環になってしまいます。
自分の誤りを反省して修正する事が非常に苦手なのです。
叱ったり大きな声を出したところで、障がいの状況は決して良くならないのです。
お互いに折り合える“落としどころ”を見つけることが一番の解決策だと思っています。
ルーベンの対応とは逆に、亡くなったカディの母親がとても良い対応をしていたのではないかとガディのセリフから感じ取れます。
「掃除のチャンピオンだ」「僕は歌手なんだ」いつも母親がカディを褒めていた言葉なんだろうと想像出来ます。
そして、如何にしてルーベンがカディに順応していくのかが、この作品ではコミカルに、ほっこりと分かりやすく描かれていました。
また、私たちの一般社会では、彼らを私たちが考える普通に当てはめようとします。
その普通の壁が、彼らを生き辛くさせているのです。
タイトル【靴ひも】の意味
物語の中で面接官の判断基準の中に、靴ひもを結ぶことが出来るかという問いがありました。
カディは、靴ひもが結べません。
判断基準に“蝶々結び”を使うところは、中々絶妙な基準だと感心しました。
普段、何気なくやっている蝶々結びですが、我が家の息子もカディと同じ事になってしまいます。
脳の障害で手先の細かな動きが苦手な事と、複雑な結び方で意外と難易度が高いのです。
ですが、この基準も壁となってカディとルーベンを苦しめる事になりました。
しかし、カディがルーベンの命を救いたい一心でこの壁を打ち破る所は、本作品一番の感動シーンです。
ところが、結末は一番最悪な悲劇となってしまいます。
何故…ゴールドヴァッサー監督がこの結末にしたのか…
カディは、入居する予定だった施設に戻り新しいパートナーと楽しく語りながら歩いていくシーンでエンディングになります。
監督が、このラストに込めた強いメッセージとは…
それは、彼らは決して同情や哀れみを受けて生きていく存在ではなく、必要なサポートさえ受けられれば自立して、自らの人生を歩いていく事が出来るのだと
蝶々結びがなんだ~
これが、私が1番強く感じたメッセージでした。