今回紹介する映画は コーダ あいのうた
2021年公開 製作:アメリカ合衆国・フランス・カナダ合作
監督・脚本:シアン・ヘダー
原題:CODA
原作:2014年公開のフランス映画『エール!』
『エール!』はこのブログでも紹介しています↓
それでは、恒例の監督紹介です
シアン・ヘダー監督
ヘダー監督は、日本では余り知られていない名前ですが
Netflixのオリジナルシリーズ【オレンジ・イズ・ニュー・ブラック】で計6話の脚本とS6の1話で監督に参加しています。
また、【タルーラ 〜彼女たちの事情〜】でも脚本・監督を務め、サンダンス映画祭でプレミア上映され高い評価を受けました。
ヘダー監督の過去の実績で最も華々しいのは
デビュー作【Mother】(2005)ではないでしょうか。
下積み時代のナニー代理店での経験から脚本を手掛けた、初の短編映画【Mother】で、フロリダ映画祭の短編部門の審査員大賞を獲得。
また、第59回カンヌ国際映画祭やシアトル国際映画祭や
その後のパームスプリングス国際短編映画祭やロンドン映画祭でも上映された作品です。
ヘダー監督は、デビュー作で既に高い評価を得ている才能に溢れた監督です。
受賞歴
そして、【CODA】では、アメリカン・フィルム・インスティチュートの2021年トップ10作品に選出。
第94回アカデミー賞では作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門で受賞を果たしています。
そして、アカデミー賞の作品部門で動画配信サービスの映画が受賞するのは本作が初めてだったのです。
アカデミー賞の前哨戦とも言われる、サンダンス映画祭初日のワールド・プレミアで上映されると
フランス通信社は”【CODA】はすぐに入札合戦になるだろう”と報じました。
そしてプレミアから2日後、Apple TV+が映画祭史上最高額の2500万ドルでこの映画の配給権を獲得しました。
Apple TV+は、大金をつぎ込んだ甲斐がありましたね。
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キャスト紹介
ヘダー監督が最初にキャスティングしたのは
聴覚障がい者でありオスカー女優のマーリー・マトリンでした。
マトリンは、企画段階で聴覚障がいの俳優の起用を主張し、起用しなければ降板するとまで言って出資者を説得しています。
その後もマトリンは、聴覚障がい者のキャスティングに拘ったヘダー監督に協力し、
聴覚に障がいのある人たちの演劇コミュニティを利用するなどして、フランク役のトロイ・コッツァーを決定しています。
そして、レオ役はオーデションの結果、トロイ・コッツァーと共演経験のある ダニエル・デュラントに決まり、ルビー役は、英国俳優のエミリア・ジョーンズが数百人ものオーディションから選ばれています。
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ルビー・ロッシ /エミリア・ジョーンズ
主人公の高校生。聴覚障がいの両親と兄の4人家族。漁業を営む家族の手話通訳として家族を支えています。
フランク・ロッシ /トロイ・コッツァー
ルビーの聴覚障がいの父親。
ジャッキー・ロッシ /マーリー・マトリン
ルビーの聴覚障がいの母親。
レオ・ロッシ /ダニエル・デュラント
ルビーの聴覚障がいの兄。
ベルナルド・ヴィラロボス (V先生)/ エウヘニオ・デルベス
高校の合唱部顧問。ルビーの歌の才能を見出し、ボストンの名門音楽大学への受験を勧めます。
マイルズ /フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
ルビーが密かに思いを寄せる同級生。
ガーティー /エイミー・フォーサイス
ルビーの友人
あらすじ
マサチューセッツ州の海辺の町で漁業を営むロッシ一家。
父親のフランクと息子のレオ、そして娘のルビーは、今日も早朝から漁に出ていました。
波の音と海鳥の鳴き声に紛れ、ラジオから流れる”Something’s Got a Hold on Me”に合わせて、ルビーは声を張り上げ歌っていました。
網を引き揚げて皆で仕分けを開始します。
そこへ無線連絡が入りました。応答するのはルビーの仕事です。
一家の中で、耳が聞こえるのはルビーだけでした。
ルビーは、幼い時から通訳として家族を支え、家業の漁の手伝いもしていました。
今日の漁も終わり陸に上がると、仲買のトニーがルビーを呼びました。
漁師たちは、漁業制限が設けられ漁獲高が減ってしまいました。そんな中でトニーは買値を安く買いたたき、漁師から不満が高まっています。
買いたたかれたルビーは、待っているフランクとレオにトニーの悪口を手話で伝えます。
レオは〈俺達で売ろう〉と伝えますが、フランクは今までに試した者は失敗していると反対します。
〈泣き寝入りか〉レオは憤ります。
ルビーは、高校へ行く時間です。
するとフランクは〈今日は病院へ行く日だぞ。忘れるな〉と釘を指しました。
早朝から漁をしているルビーは、授業中に居眠りをしてしまいます。
先生に起こされ、ルビーは飛び起きますが…チャイムに救われました。
友達のガーティーとたわいもない話をしていると、同級生のオードラが「魚臭い?」とルビーを揶揄、2人の友達はせせら笑いして通り過ぎていきます。
そしてオードラは、ルビーが密かに思いを寄せるマイルズに話しかけています。
2人の姿を見て、ルビーの胸は痛みました。
今日は、選択科目を選ぶ日でした。
ガーティーは一番楽な科目を選ぶと言って映画クラブを候補に挙げます。
しかし、ルビーはマイルズが気になって仕方ありません。
すると、マイルズは合唱クラブを選択していました。
ルビーもすかさず「合唱」と合唱クラブに決めてしまいます。
下校時間になると、大音量でラップを流しながらピックアップ車が学校に近づいてきます。
生徒たちのクスクス笑う声が聞こえました。
ルビーは恥ずかしくなって車に急いで近づきます。
車には、フランクと母のジャッキーが乗っていました。
〈音がうるさい〉ルビーは急いで車に乗って音量を下げますが、
〈ラップは最高だ。ケツがズンズン振動する〉フランクは音量を上げてしまいます。
〈早く車を出して〉ルビーは怒って音量を下げました。
ピックアップが走り出すと、オードラ達のせせら笑いが聞こえました。
病院から帰宅すると、ルビーはテーブルで勉強をしていました。
しかし、フランクとジャッキーは夕飯の支度でガチャガチャと大きな音を立てています。
レオのスマホからは操作音が引切り無しにしていました。
ルビーは仕方なくイヤホンをしますが、それを見たジャッキーはイヤホンを外してと注意するのです。
〈皆がうるさいからよ。集中できない〉ルビーはイライラします。
ジャッキーには、その状況が理解できません。
夕食が始まっても、レオは出会い系サイトの女の子を両親に見せて楽しんでいます。
ルビーは、食事中は止めるように注意しますが、レオはお構いなしです。
〈音楽はダメで、出会い系はイイの?〉とルビーがジャッキーに怒ると、
〈家族全員で楽しめるじゃないの〉とジャッキーも楽しんでいます。
家族の中で、ルビーだけが理解し合えませんでした。
翌日、合唱クラブが始まります。
顧問のV先生は、生徒の声を判断する為に1人ずつ歌わせ、パート選びを始めます。
「アルト」…「テノール」…次々決まって行きます。
いよいよルビーの番がやって来ました。
「さあ、君だ。赤シャツ」ルビーは呼ばれます。
しかし、ルビーは人前で歌う事が怖くなり、教室を飛び出してしまいました。
「脱走だ」V先生は呆れます。
ルビーは、森の中にある秘密の池へ向かいます。
ルビーは1人になると、課題の曲“ハッピーバースデー”を歌います。
池の周りにルビーの歌声が響き渡っていました…
続きは本編で!
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勝手に私見考察
細かい違いは色々とありますが、あえてテーマ性の違いを、私なりに比較してみました。
原題から分かる、オリジナル版との違い
オリジナル版の原題は【La Famille Bélier】
タイトル通りベリエ一家の団結が軸に描かれています。
ベリエ一家は酪農業を営み経済的にも恵まれ自立していました。
おまけに、村長の政策に危機感を持てば、果敢に村長選挙に立候補する等、障がいがあっても関係ない!家族で力を合わせて乗り越えよう!
と力強い一家の姿とポーラとベリエ一家の親離れ子離れが描かれています。
一方【CODA】は、障がいを持つ家族と健常者の狭間で葛藤し
そのどちらとも理解し合えない孤立感の中、コーダは家族から旅立って行く決断をします。
そして父親のフランクは、漁業を営む中で泣き寝入りばかりしていました。
しかし、最後には兄のレオの主張を受入れ漁師仲間と共に協同組合を設立し自立の道を選びます。
【CODA】では、ロッシ一家の自立とコーダが自分の道を歩き出すそれぞれの選択を描いていました。
主人公の比較
コーダとポーラ
コーダ役のジョーンズは、既に役者としても活躍し、歌唱力も抜群で完成度が高い。
その反対に、原作のポーラ役ルアーヌ・エメラは、いきなり主役に大抜擢された新人でした。歌や演技も初々しさがあって、才能を見出される設定にリアル感が出ています。
障がい者の描き方の比較
【コーダ あいのうた】では、初めに障がい者の家族と周囲との間にある壁を描いています。
フランクは、何もできないバカにされていると言って、外ではコーダ任せ自分は何もしません。
また、コーダの存在があることで、障がい者側、健常者側
その双方が抱える問題を分かりやすく表面化したところは非常に上手いと思いました。
しかし、そんな問題もラストでは
勇気を出して漁師仲間と一緒に組合を立ち上げたり周囲に溶け込み自立していく様を描いて感動させてくれました。
一方【エール!】では、障がいは個性だ!と父親のロドルフはポジティブです。
ところが、その反対に健常者の娘ポーラは自分の進路に悩み、
コーラス部のガブリエルは父子家庭で孤独、またコーラス部の顧問トマソンは、理事長に嫌われ10年間も田舎の学校に飛ばされている等、逆にネガティブなのでした。
何より、障がいをモノともせず、自分軸で生きていくベリエ一家を生き生きと描いています。
こうして比較してみると
リメイク作品でも、オリジナルと違ったストーリー性があり
まさに!製作者の狙い通りに大当たりした感動の作品でした。