今回紹介するドラマは 名探偵ポワロ ドラマシリーズ
『エルキュール・ポワロ』は『ミス・マープル』と並びミステリーの女王アガサ・クリスティーの著作の中で人気の高い主人公です。
何と言っても、1920年に発行されたポワロのデビュー作『スタイルズ荘の怪事件』は
クリスティ自身の処女作であり、彼女の代表作にもあげられる作品となりました。
そして、名探偵ポワロは1975年の最終話『カーテン』までに、実に33の長編と54の短編、1つの戯曲に登場ています。
そんなポワロシリーズを
25年という歳月をかけ映像化したのが、イギリスのロンドン・ウィークエンド・テレビジョンが制作した【Agatha Christie’s Poirot】でした。(シーズン9からはAgatha Christie:Poirotに変更)
このドラマは、原作をリスペクトした丁寧な作りで視聴者の支持を集め、名探偵ポワロ像を決定付けた作品と言われています。
そして、このドラマシリーズは100カ国以上で放送され7億人が観るほどの人気を博しました。
ところが、世界中で愛された人気ドラマシリーズも継続を危ぶまれる事もありました。
当初からのプロデューサー退任や制作母体の変遷などトラブルが続き、一時的に制作が中断されてしまったのです。
そんな状況を救ったのは、ドラマファンの根強い人気だったのです。
その後、断片的にドラマの制作は続けられ、2013年のシーズン13をもって無事に完結されました。
そして、ポワロと言えば前述の【スタイルズ荘の怪事件】をはじめ【オリエント急行の殺人】【アクロイド殺し】【ナイルに死す】など多くの物語がクリスティの代表作に挙げられる名作ぞろい。
しかし、全70話全てを制覇してみると、そのどれもが極上のミステリーなんです!
今回は、その中から私的視点でピックアップしています。
『ミス・マープル』もこちら↓で紹介しています。
メインキャスト紹介
ポワロ役のデヴィッド・スーシェは、これまで読んだことが無かった原作を徹底的に研究し、ポワロの容姿や性格、細かな仕草まで原作通りに再現した事はとても有名な話です。
そして、その演技は「原作に最も近いポワロ」と賞賛されるほどの完成度でした。
エルキュール・ポワロ/ デヴィッド・スーシェ | 主人公。元ベルギー警察の警官 第一次世界大戦の影響でイギリスのスタイルズに亡命した時 「スタイルズ荘」で起こった殺人事件を解決し一躍有名な探偵に! “秩序と法”を重んじ、自慢の”灰色の脳細胞”を用いて次々と難事件を解決していきます。 身長約160センチの小男で、緑の眼に卵型の頭、黒髪でぴんとはね上がった大きな口髭をたくわえ、三つ揃いのスーツと蝶ネクタイ、山高帽を被りエナメル靴を履いています。 そして、その性格はかなり几帳面で“潔癖症”なほどきれい好き。 礼儀正しく義理人情に厚い。時にはキューピッド役をするなどお節介を焼くこともあります。 | ||||
アーサー・ヘイスティングス/ ヒュー・フレイザー | ポワロの友人でパートナーのイギリス陸軍の退役将校 第一次世界大戦に従軍しましたが、負傷し傷痍軍人として帰国『スタイルズ荘の怪事件』でポワロと再会した後にポワロのパートナーに。 性格は優しく温厚で、物腰は柔らかく相手をすぐ信用するお人好しで美人の女性に弱い。『ゴルフ場殺人事件』で伴侶となるイザベルに一目惚れします。 自信過剰なポワロとそれを皮肉るヘイスティングス大尉との掛け合いも楽しいシーンです。 | ||||
ジェームス・ハロルド・ジャップ警部/ フィリップ・ジャクソン | ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)の主任警部でポワロのよき協力者、友人として長年つきあっています。 シーズン1では、お互いにライバル視することもありましたが、ポワロへの信頼は厚く捜査で意見が対立することがあっても、 ポワロの推理を見守る場面も多々あります。 既婚者でエミリーという妻がいますが、一度だけエミリーらしき人物が1シーンだけ登場します(ポワロのクリスマス) | ||||
ミス・レモン/ポーリーン・モラン | ポワロの有能な秘書 時には捜査でポワロとヘイスティングス大佐と同行する事もあります。 思わぬ彼女の発言がポワロにヒントを与えることもしばしば。 一度だけ恋人が出来ますが(イタリア貴族殺人事件)、一生独身を貫きました。 | ||||
アリアドニ・オリヴァ夫人/ ゾーイ・ワナメイカー | 後期作品『ひらいたトランプ』より登場して以後「マギンティ夫人は死んだ」「第三の女」「ハロウィン・パーティ」「象は忘れない」に登場しています。 著名な女流推理作家。フィンランド人探偵スヴェンシリーズは、長く書き続けられている彼女の作品ですが、書き続けなければならないことをしばしば愚痴っている設定など、彼女はアガサ・クリスティ本人がモデルだとされています。 「作品の参考にする」という口実で事件に首を突っ込み、無意識に重要なヒントを与えたり、事件を引っかき回すなどポワロをやきもきさせる場面もありました。 | ||||
ジョージ/デイビット・イェランド | ポワロの執事 このドラマでは後期シリーズの準レギュラーとして第57話で初登場。 実直な人柄で、主人のポワロを最高の主と称え忠実に仕えます。 ポワロが強く拘る朝食のゆで卵も、きっちり形の揃った2個を用意するなど、主人を満足させる有能さ! 時にはポワロに依頼されて事件の調査をしたり、意見を求められることもあります。 |
神回の紹介
あれもこれもどれも傑作ばかり!
この作品は、シーズン8まではテンポよくお茶目で快活なポワロが
シーズン9以降は、物語全体が緊張感と重厚感を強調する演出にかわっています。
また、ポワロも孤高的存在感が強まりガラリと作品のトーンが変化され(ショーランナーが変わったから)
マンネリ感を全く感じません。
それでは、私が一番ショックを受けた作品から紹介していきます
顛末が残酷過ぎて…さすがのポワロもやり切れなくなる名作3選
5匹の子豚
キャスト:キャロライン・クレイル/レイチェル・スターリング アミアス・クレイル/エイダン・ギレン フィリップ・ブレイク/トビー・スティーブンス メレディス・ブレイク/マーク・ウォーレン エルサ・グリヤー/ジュリー・コックス
あらすじ
16年前の夫殺しの罪で絞首刑になった母の無実を訴える娘。その依頼を受けたポワロが、当時の5人の関係者との会話を手がかりに、真実へたどり着くまでを描いた『回想の殺人』の傑作。原題の『五匹の子豚』は、お馴染みマザー・グースの童謡「この子豚はマーケットへ行った」など5つの歌詞にちなんだもの
感想
冒頭からキャロラインの絞首刑というショッキングなシーンから始まり、ラストでポワロが暴く真実が余りにも悲惨でその無念が心に残ります。殺された夫アミアス役には、【ゲームオブスローンズ】のリトルフィンガー役エイダン・ギレンが演じています。若かりしギレンに当初は全く気がつきませんでした…
満潮に乗って
キャスト:デビッド・ハンター/エリオット・コーワン ロザリーン/エヴァ・バーシッスル リン・マーチモント/アマンダ・ダウジ ローリー・クロード/パトリック・バラディ アデラ・マーチモント/ジェニー・アガター
あらすじ
2年前に起こった大富豪の爆発事故死。奇跡的に生き残った若い未亡人の兄デビッドによって財産は管理されるようになり、一族面々は厳しい経済状況を強いられるようになります。「あの娘さえいなければ」一族から恨まれる未亡人。ところが、彼女に二重結婚の疑惑が浮上し、ポワロは行方不明となっている前夫の捜査を依頼されます。
感想
原作より残酷なストーリーになっています。デビッドが鬼畜過ぎ~。タイトルの『満潮に乗って』はシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』から付けられ、その一節”うまく満潮に乗りさえすれば運は開けるが、いっぽうそれに乗り損なったら、人の世の船旅は災厄つづき”この作品は、正にその災厄を描いた傑作です。
死との約束
キャスト:ボイントン卿/ティム・カリー ボイントン夫人/シェリル・キャンベル サラ・キング/ クリスティーナ・コール テオドール・ジェラール/ ジョン・ハナー セリア・ウェストホルム卿夫人/エリザベス・マクガヴァン レナード/マーク・ゲイティス レイモンド/トム・ライリー ジニー/ゾーイ・ボイル
あらすじ
ポワロの中近東シリーズの長編第3作の1作。ボイントン卿が率いるシリアの遺跡発掘現場にツアーで訪れたポワロ。ボイトン夫人のまるで暴君のような尊大な態度には目に余るものがありました。ある夜、寝しなのポワロの耳に、夫人の連れ子レイモンドとキャロルの話声が漏れ聞こえてきます。「仕方ないのかしら」「死んでもらおう」と…そして、発掘現場に到着して間もなく事件は本当に起こります。「ほうら 始まった」ポワロは呟きました…
感想
ポワロ作品では上位に上らない作品です。原作とは随分変更されていてほぼオリジナル脚本と言ってもイイと思いますが、その残酷な顛末と子を想う親の気持ちに胸を打たれて泣ける物語でした。キャストには『ダウントンアビー』『SHERLOCK』でお馴染みのあの俳優さんたちの若かりし頃の姿が見られます。
ラストがスッキリしない作品ばかりですが、そのドロドロなストーリーに引き込まれました。
ポワロがキューピッド役になった神回
盗まれたロイヤル・ルビー
キャスト
レイシー大佐/フレデリック・トレビス レイシー夫人/ステファニー・コール セアラ・レイシー/ヘレナ・ミッシェル デビッド・ウェルウィン/ジョン・バーノン デズモンド・リー=ワートリー/ナイジェル・ル・ヴァイラン ファルーク王子/アントニー・ザキ
あらすじ
1人でゆっくり過ごすクリスマスを楽しみにしていたポワロ。ところが、突然2人組の男が現れ「国家の一大事だ」とポワロを外務省に連れて行きます。すると、エジプトの若き皇太子が家宝のロイヤル・ルビーを謎の女に盗まれた事件が起こり、その捜査をポワロに依頼したいと言うのです。渋々引き受けたポワロは、エジプト学者レイシー大佐邸のクリスマスに招待されますが…
感想
シーズン3の短編ドラマ。レイシー大佐の孫娘は悪い男に惹かれていました。そんな彼女に片思いする好青年デビッド。彼は自分に見向きもしない彼女を諦めかけていました。そんな微妙な2人をポワロは見逃す事無く。ラストにはさり気ないポワロのお節介で2人の距離はギュット縮まります。この頃は、ポアロも快活で子供やメイドとの和やかなシーンも沢山ありました。
ゴルフ場殺人事件
キャスト
ベラ(イザベル)・デュビーヌ/ジャチンタ・マルケイ ポール・ルノー/ダミアン・トーマス エロイーズ・ルノー/ ダイアン・フレッチャー ジャック・ルノー/ベン・プーレン マルト・ドブレイ/ソフィー・リンフィールド ジロー/ ビル・ムーディ
あらすじ
フランスのリゾート地、ドービルを訪れているポワロとヘイスティングス大佐。そこへ実業家のポール・ルノーから「助けて欲しい」と警備の依頼を受けます。しかし、その翌日ルノーは拉致されゴルフ場で遺体となって発見されました。ポワロは夫の訃報を聞いた夫人の様子が気になります。
感想
この作品を挙げないわけにはいきません!男を騙す悪女を描いた物語ですが、親友ヘイスティングス大佐が彼を利用し捜査妨害してまで元彼を庇うイザベラに恋をしてしまいます。一件落着後、傷心のヘイスティングス大佐の元へ、ポワロはイザベラをそっと連れて行きます。こうしてヘイスティングス大佐は素敵な伴侶と結ばれました。
杉の柩
キャスト
エリノア・カーライル メアリ・ジェラード/ ケリー・ライリー ロディ・ウィンター/ ルパート・ペンリー=ジョーンズ ピーター・ロード医師/ポール・マッギャン ホプキンズ看護師/フィリス・ローガン オブライエン看護師/マリオン・オドワイヤー ウェルマン夫人/ダイアナ・クイック
あらすじ
婚約が決まり幸せの絶頂にあったエリノア・カーライル。しかし、運命の歯車は1通の脅迫状から狂い始めます。そして、婚約者とも幼馴染の出現で破局となり嫉妬に駆られるエリノア。その後、彼女は2つの殺人罪で逮捕され死刑が確定されてしまいます。エレノアに想いを寄せるロード医師の依頼を受けポワロは死刑執行までに真犯人を捕まえなければなりません。
感想
今回のポワロの推理は別格に素晴らしかった!人間の味覚から真犯人を突き止めるとは…そして、エリノアを救うべく刑務所へ向かうポワロは、エリノアをふった元婚約者ではなく彼女にずっと想いを寄せていたロード医師をお伴に選びます。こうして、ポワロは事件で傷ついたエリノアに無罪放免と真実の愛でもって彼女の心を救います。この作品は結末もスッキリできる感動の名作です。
ポワロのキューピッド役で終わる回は、ドロドロで救いようがない物語の中でもハッピーエンドで終われる神回だと思います。
この他にも【マギンティ夫人は死んだ】でもキューピッドになっているポワロでした。
犯人が豹変してさすがのポワロもビビった神回
あなたの庭はどんな庭?
キャスト
カトリーナ・レイガー/キャサリン・ラッセル メアリ・デラフォンテン/アン・スタリーブラス ヘンリー・デラフォンテン/ティム・ウィルトン アミリア・バロビー/マージェリー・メーソン
あらすじ
”チェルシー・フラワショー”でポワロと名が付いた新種のバラの発表式典に参加したポワロは、見知らぬ車椅子の老婦人に声をかけられます。彼女は「役に立つ」と言ってストックの種の袋をポワロに渡します。その後、あの老婦人から手紙が届きました。そこには、家族に秘密で相談にのって欲しいとあります。ところが、ポワロが訪ねると既に老婦人は亡くなっていました…
感想
シーズン3の短編の物語です。ラストで真犯人が豹変する様は吹き替え版の方が面白いです。声優の新橋耐子さんが凄かったですね。また、イギリス作品でよくみるロシア貴族の亡命者の悲劇を描いた作品でもありました。
葬儀を終えて
キャスト
ギルバート・エントウィッスル/ロバート・バサースト ヘレン・アバネシー/ジェラルディン・ジェームズ ロザムンド/フィオナ・グラスコット スザンナ・ヘンダーソン/ルーシー・パンチ モード・アバネシー/アンナ・コールダー=マーシャル ミス・ギルクリスト/モニカ・ドラン
あらすじ
富豪のリチャード・アバネシーの葬儀の後、親族が一堂に会し遺言書の開示が行われます。しかし、その内容は以前のものとは全く違っており一同を驚かせます。また、リチャードの妹コーラが「兄さんは殺されたんでしょ?」と突然の発言に再び驚く親族たち。ところが、今度はそのコーラが惨殺され遺体で見つかります。しかも葬儀の日に屋敷の権利書も盗まれ、弁護士のエントウィッスルはポワロに捜査を依頼します。
感想
ポワロに犯人だと名指しされると、今まで抑えていた怒りが爆発し一気に豹変する犯人!コワイ~ ラストのポワロの謎解きシーンは必見です!また、この作品はクリスティ・ファンからの人気も高く上位に挙げられる傑作。富豪の突然の死から次々起こる事件に関連性はあるのか?数々の伏線が散りばめられていますが、ポワロがそれら全てを回収しスッキリさせてくれます。
象は忘れない
キャスト
シリア・レーブンズクロフト/バネッサ・カービー マリー・マクダーモット/アレキサンドラ・ダウリング デスモンド・バートンコックス/フェルディナンド・キングズレー ウィロビー博士/イアン・グレン バートンコックス夫人/グレタ・スカッキ ゼリー・ルーセル/エルサ・モリアン
あらすじ
オリヴァ夫人は自身の授賞式の会場で、ある夫人から相談を持ちかけられます。それはオリヴァ夫人の名付け子の両親が13年前に心中した事件の事でした。“父親と母親のどちらが相手を殺したのか”その疑惑の真相を名付け子から聞き出して欲しいというものでした。ポワロに相談するオリヴァ夫人ですが、ポワロは別の殺人事件の捜査をしなくてはなりません。ところが、全く関係のないと思われた2つの事件に接点が浮上します…
感想
タイトルの『象は忘れない』がイイですね!「象のように」記憶力のよい人々を訪ね歩き事件の真相を探るこの作品も『5匹の子豚』と並ぶ回想殺人の傑作です。そして、ドラマでは原作とは違い“象は(恨みを)忘れない(そして必ず報復する)”にもなぞらえ復讐劇も加わっています。ラストの謎解きシーンでみせる、犯人の太々しい態度や強い嫉妬心を露わに睨みつける顔は恐ろしい~。あんな顔で睨まれたら3日くらいはうなされそうです。